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PONKOTSU-BARON project 第2弾 『回転する夜』感想

2016年3月9日
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少し前にはなってしまいますが、紀伊國屋サザンシアターで公演された、ポンコツバロンプロジェクト第2弾作品である『回転する夜』を観劇してきました。
今作品はバロンメンバー安川純平さんが体調不良のため降板、元々のリーディング作品に出られていた逸見宣明さんがご出演されました。
以下、感想(レポ)です。ネタバレます!

感想

演じているというよりも成っている、役者がまるでその人物として生きているよう。
演技ではなくてリアルを感じる一挙一動に引き込まれました。
どの人物にも感情移入ができるくらいに皆が平凡な人間で、皆がそれぞれの夢を追いかけたり苦悩しながら生きています。
こんな人いたなぁ、と過去の思い出に重ね合わせてみたり、この気持ちわかる!わかりすぎて痛い!と心締め付けられながらの観劇でした。

ホラーノベルゲーム的な演出

すっごく個人的な話ですと音楽チョイスや光の魅せ方、演出関係がとても苦手でした……。
冒頭、静止画をノイズと共に次々と映していき、一瞬血のような一面の赤が表れたかと思うと、台詞の文字が舞台の壁一面に隙間もないくらいにびっしりと映し出されます。
この演出が昔のホラーノベルゲームを彷彿とさせて結構なトラウマです。場面転換で挟まれるBGMもホラーノベルにぴったりで耳から離れないと同時に思い出すと震えます……。
そんなわけで開演30秒足らずで苦手意識が刷り込まれてしまいました。ホラーノベルが平気な方なら問題なく受け入れられるかと!

現実的な設定に唯一の非現実

現実を感じるリアルな悩み、キャラクターたち。
どこにでもあるようなありふれた設定に現実の苦しさを感じた今作の観劇ですが、唯一リアルでない箇所がありました。
主人公ノボルがターニングポイントである雨の夜を繰り返すこと。唯一仮想的であり、この物語の主軸です。

何度も何度もやり直す過去、タイムリープ、はたまたノボルが熱の中で見た夢幻なのかはわかりません。
わかりませんが、ノボルにとってやり直したい過去ではあっても繰り返したい過去ではないはず。
同じ夜を、何度も後悔しながら必死に変えていくのはどんなに苦しいことでしょうか。
目覚めた夜、変わらないのは38.3度の体温計、兄サダオの帰ってくるタイミング……。
余談ですが、ちょうどひぐらし世代なので梨花ちゃんの抜け出せない昭和58年5月を見ているようでした。

夜をやり直した先に辿り着いた真実を知り、ノボルは引きこもることを辞め、自転車で飛び出して終幕。
前作の『オズからの招待状』同様、葛藤を乗り越えて前向きに生きよう、というメッセージ性が込められているように感じました。
ただここで個人的な感想を申しますと「よかったねノボル!」よりか、「まだ高みを目指せるだろうノボル!!」です。
というのも私の理想のノボル人生に程遠い終わり方であったのでもやもやしています。
なんかこう……わかるんですけどね……!?納得できないじゃないですか……!
謎が解決した、和解もできた、父親の家業は継げなかったけど近くのホームセンターで働くことから始めよう!ということなんですけど、もっとこう、折角今まで打ち込んだ経営学の勉強を活かした何かができるんじゃないのかノボル……!
しかしお話の“リアル”を考えたら一番現実的な終わり方なんですよね……。現実なんて既にハードモードなので観劇くらいは夢をみたい、というのが私の根本的な考えなのかな、と改めて認識して絶望しました。

アフタートーク感想

私が見た回のアフトーゲストは伊勢大貴さんと章平さん。
章平さんはこのポンコツバロンの 『回転する夜』を観劇されるのがこれで2度目とのこと。
印象に残っているのが「もし次のポンコツバロンの作品に出れるとしたら出たいですか?」との質問に対して、章平さんは「出たい!」と即答し、いせだいさんは「俺は観てるほうがいいかな」とお答えしたこと。
「今回の 『回転する夜』は演技を如何に演技に見せないか、と作られている作品だし、俺は大袈裟に演じちゃいそうだから(笑)」と仰っていました。大袈裟な登場シーンを効果音付きで体現してくださって会場爆笑。
章平さんはとても真面目で真っ直ぐな方なんだな、と改めて思いましたし、いせだいさんは相変わらずムードメーカーでした。なんであの人あんなに面白いんでしょう……。

気になりキャスト

個人的に好きなシーンは、ニッキ(逸見さん)が千穂(木乃江さん)にじっと見つめられて「何照れてんねん」とアッくんから突っ込まれるところ。
千穂さん、なんて世渡りの上手い女の人だ……!自分の武器を最大限に活用するしたたかさに感動してしまいました。

ノボル役赤澤燈さん

主人公です。
夢を奪われ、思い通りにいかない人生を卑屈に捉えて部屋に引きこもるノボル。
何度も何度も過去をやり直して、「あのときヤースケがいなければ」「あのときニッキに言い返せば」と後悔を潰して望む未来に近付こうとしていきます。
繰り返す中で行動を起こす勇気を持ち、そして真実を知ったことで少しだけ人生を前向きに生きようとする人間的な成長を感じられました。

印象深いシーンで挙げたいのが、ノボル以外がワイン片手に盛り上がっているとき、彼は上手で独りぼっちなんですよね。
そのときのノボルが、「どうしようどうしようどう行動すれば、なんて発言すれば未来は変えられる?」と“どうしよう”の感情ではちきれそうなのが痛いくらいに伝わってくるんですよ。
この“どうしよう”の感情に覚えがありました。昔ブラックに勤めていたときに頭が働かなくなり、でも焦燥感だけは消えない感情。そのときの心情と重ね合わせて観てしまいました。ただただツライ!

アツシ(アッくん)役味方良介さん

今回の味方さんの役がとても好みでした。
空気がギスギスする場面が多かったのですが、その度アッくんが「おい」と喧嘩を吹っ掛ける側を牽制していて、なんというか、救われました。
お兄さん肌で喧嘩が起こりそうなときにはいち早く仲裁に入りつつ、その場の空気を盛り上げにも長けています。
ノボルが実の兄であるサダオよりも遥かに信頼を置いていたのもアッくんでした。

そんなアッくん、誰にも何も告げずに自衛隊に入隊します。
ノボルが引きこもる原因のひとつとして、アッくんが急にいなくなってしまったのも大きいと思うんですよね。他に信用している人がいない中、唯一信頼している人が何も言わずにどこかに行ってしまったら「自分は信頼されてなかったのか」と考えたくもなりますよね……!
繰り返す夜、アッくんと二人きりになったノボルは「なんで自衛隊に行っちゃうの?」と聞けなかった質問を投げかけます。
「海を越えたらすぐに外国で、脅威は身近にある。だからこそこの国を守りたい」と、そんなニュアンスの話をしていたように思います。

アッくんの本音を聞いた後のノボルにとって何度目かわからない目覚めの夜。しかしいつもとは違いました。
アッくんが自衛隊からふらっと帰ってきたのです。
「辞めてきたわ」とあっけらかんと言うアッくんですが、「ままならねぇなぁ」と自嘲するように呟いたことに心が痛くなりました。
ノボルが「アッくんみたいになりたかった」と千穂さんに漏らした後の出来事だったので、余計に。

憧れの人は理想通りの人生を歩んでいるわけではない

主人公ノボルの理想の人生とは、『父の貿易業を継ぎ、好きな人(千穂さん)と結婚し、仕事と家庭で充実した人生』ことだったのではないかなぁと。
その夢は、突如「千穂と結婚する。父の仕事を継ぐ」と宣言した兄サダオによって奪われます。
父の仕事を継ぐために経営関係の勉強をしたノボル。心の支えだった元家庭教師千穂。
どちらも奪っていった兄は憎い存在に外ならなかったでしょう。
「俺がそうなるはずだったのに。どうして兄が」
憎いと同時に、きっと兄の人生を羨んでいたに違いありません。

本当に、兄サダオの人生は弟ノボルの理想通りの人生だったのでしょうか。
夜を回転し、繰り返した先に知った現実はノボルの思い描いていた理想とは程遠いものでした。
父の会社は担当会計士によって金を持ち逃げされ、廃業寸前。その危機で父から「なんとかしてくれ」と泣きつかれたのが息子サダオでした。
友人たちにも金の援助を頼むくらいに切羽詰まっていたサダオ。しかしこのピンチは弟にも、友人にも、そして妻となる彼女にも伝えませんでした。
サダオは陰で努力し、苦労して、ぐちゃぐちゃだった会社を立て直しました。崩壊寸前だったことを周囲の人間に悟られないよう、完璧に。

ノボルがあの夜を何度も繰り返した末に、兄サダオと向き合って不満をぶつけます。
結果、本心を隠し猫を被って世間を上手に渡ってきたサダオがようやく告げた真実、弟への恨み言。
「お前がいなければ俺は夢を追えた」「お前が出来損ないだから俺がやらざるを得なかった」
弟ノボルが兄サダオを羨み、憎んでいたように、兄から弟への感情も同じものだったのではないでしょうか。

他者の人生が羨ましいと思ったことは数えきれないほどあります。
しかしその人は自分の知らない何かを抱えているのではないか?とこの作品を通じて考えるようになりました。
ノボルが信頼していたアッくんもまた、苦労をし夢がありながらもままならない人生を送ってきたのでしょう。
「あんな風になりたかった」の言葉を口にした人物が想像している人生を送っているとは限らないのだなぁ、と。
だから安易に「どうしてこの人ばかり成功しているんだろう」と卑屈にならないように。
きっと私の知らない苦労を抱えているだろうし、そもそもその人以上に努力をしなければ望む人生には近づけない。
ターニングポイントを何度もやり直すことができなくても、理想通りの人生にならなくても、誰かの人生を羨むだけではなくその陰の努力が隠されていることを念頭に置き、後悔しないためにも努力、そして完璧を目指さない心(重要)を持っていこうと思いました。

公演概要

PONKOTSU-BARON project 第2弾 『回転する夜』

2016年1月30日(土)~2月7日(日)@東京:紀伊國屋サザンシアター

スタッフ

作:蓬莱竜太
演出:和田憲明

キャスト

早山ノボル役:赤澤 燈
早山サダオ役:西島顕人
佐竹アツヤ(アッくん)役:味方良介

矢島ヨウスケ(ヤースケ)役:島 丈明
西田キョウヘイ(ニッキ)役:逸見宣明(Dotoo!)
早山千穂(旧・吉岡千穂)役:木乃江祐希(ナイロン100℃)

ストーリー

とある田舎町。海に面した丘の上に建つ豪華な一軒家。
兄夫婦と同居し2階の部屋で何不自由のない生活を送る、
ひきこもりの青年ノボル。

ある夜、
熱を出して寝込んでいるノボルの部屋に心配した義姉が現れる、と、
全てを失ったあの一夜の記憶が夢の中で蘇る。
だがその記憶は、ノボル自身によって変容し、ノボルの「現在」と交錯していく。
現在と過去の狭間で、もがき続けるノボル。
終わらない夜の中で、ノボルはやがて思いもしない「真実」を知ることになる。

そして、その夜が明けた時・・
(公式サイトより引用)

公演公式サイトはこちら

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カテゴリー: 舞台 タグ: PONKOTSU-BARON project, ミュキャス, 舞台, 赤澤燈

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