下北沢のGeki地下Libertyで上演しておりました、大人の麦茶さんの「認めてどうしても欲しくて」を観劇してきました。
若手俳優系舞台を観に行った際に、大人の麦茶さん所属の役者さんをお見かけすることが何度かありましたので、いい機会だと思い本公演へ。
なんというか……こう……ちょっと心の整理に時間のかかる作品です。
初日に観に行ったにも関わらず気付けば千穐楽終わってしました。この筆の遅さ本当にごめんなさい
※以下感想、レポですネタバレしてます!
感想
重い。
一言で表すならこんな感じでした。
個人的な嗜好の話にはなりますが、現実が私に優しくない分、舞台では明るい物語を見て楽しい気持ちになりたいんですよね!
なのでSFではないガチの戦争モノや大災害系は本気推しの役者さんがいないと敬遠していまして……。
そして今回の「認めてどうしても欲しくて」は、東日本大震災を彷彿とさせるような地震が“革命”として物語のひとつの転機として取り入れられておりました。
丁度公演期間がドンピシャですし、きっと狙っているんでしょうけれども!
私にはテーマが重すぎて観劇後、とても寒くて暗い気持ちで帰路に着きました。ツラかった。
地震諸々もとてもツラかったんですけれども、他の観客のお客さんの私の笑いポイントがずれていたのも困惑しました。
えっここって笑いどころ……!?
となる箇所がちらほらあったので、物語とは関係のないところで中途半端に現実に戻されるのがツラかったです。
自分が観に行った作品はTwitter等で他の方の感想を拝見したりするのですが、「所々で笑えて~」みたいな感想に二度見してしまいました。
コメディポイントはあったものの、私が泣くポイントで他の方が笑っていたりしたので感覚のズレにもやもやしてしまいます。
あたまの中のくろいワニ
今井和美さん演じる赤星がアルバイトを辞める際に、「あたし、あたまの中にワニ飼ってるからさ、くろいワニ。なんの許可もなしに夢に出てくるから餌代がかかんだよね」と。
フライヤーのあらすじにもこのくろいワニの記述があり、「くろいワニとは何のことだろう」と思いましたが、蓋を開けたらその意味が分かりました。
第二の自分というか、綺麗じゃない自分自身。誰にも言えない他者への気持ちを代弁する悪い自分。
にこやかに対応していても裏では何を考えているかわからないですし、心の中で暴言吐いている真っ黒な自分こそがくろいワニ。
今作品のくろいワニ、きっと誰でも心に飼っているのではないでしょうか。
今作品を観ていない方にどうやって説明したら分かってもらえるだろうと頭を働かせたところ、真っ先に出てきたのが『DEATH NOTE』の夜神月が1ページまるまる使った「計画通り」でした。
ふたりの飼う、”くろいワニ”
同じシーンを別の人物視点で繰り返される見せ方、とても好みでした。
赤星が岩田有弘さん演じる石田さんに擦り寄る場面。
一度目のその場面は赤星視点で、態度があからさまに石田さん狙いでキャラ作ってるwwwと笑ってしまいましたが、繰り返される2度目の同じシーンは石田さん視点。
表向き、石田さんは赤星に優しいのに、実は赤星に対して辛辣な言葉を心中で向けています。
しかし誰にでも毒を吐くわけではなく、白玉さんにはでれっでれ。その態度の違いが顕著すぎて!w
赤星と石田さん、観劇している側からくろいワニをみれるのはこの二人。
好意と、好意を避ける攻防戦が水面下で繰り広げられている様子は、見ていてくすりと笑ってしまいました。
気になりキャスト
お話が重くて私の気分がどん底、というだけで、それぞれの役者さんは流石でした。
作・演出の塩田泰造さんのブログにて、出演者たちの紹介がされていました。
とてもありがたいです!
自分で忘れないようにリンクしておきますので皆様も是非御覧ください!
認めてどうしても欲しくて 二週めに突入〜 | 塩田泰造オフィシャルブログ「塩田泰造のムギムギデイズ」
児玉枋子(こだまえこ)役小山まりあさん
正統派のロングメイド着用……!
登場時の振る舞いからメイドかと思いきや、『折鶴』工場直営の販売店で働く売り子のお嬢様でした。
中々セットや衣装から時代背景が掴めず、冒頭数分、「昭和時代のお話なのかな?」と観ていましたが、2020年東京オリンピックの話が出てきたところで、現代の話だ!と気付きました。
傳田圭菜さん演じる白玉さんのことを「おねえさま」呼びしていたのでどこのマリ見てかと……
ロングメイドのお嬢様なのですが、たまにがさつな行動を取るのもギャップがあって素敵です。
さて、枋子は特殊な能力を持っています。
白玉さんが「チューニング」と呼ぶ能力です。
このチューニングとは、相手の会いたい相手を見せる能力。あっ私説明下手くそ
赤星の例えを借りて説明すると、「待ち合わせのとき、相手が中々こないと、道行く人みんなが待ち合わせの相手に見えてしまう。そんなとき、本当の待ち合わせの相手を見せてくれる。」
それが枋子の能力です。説明下手くそすぎて何も伝わらない!!
実際の場面を例に挙げます。
赤星に謝りたい岡村ちゃん(川口美紀さん)の手を枋子が握ると、岡村ちゃんには枋子が赤星の姿に見えるんです。
しかし枋子には相手が誰の姿を見ているかわからないし、枋子は枋子のままで誰かに成りきるわけではないので、手を握る相手の話を聞いて、相手の見ている姿が誰かを推測し、話を合わせてあげなくてなりません。
この能力がすごく切ないんです……!
相手は自分の顔を見て話しているのに、相手からは自分が見えていない、自分の後ろの会いたい相手と話している、まるで透明人間のよう。自分がそんな能力持ってたら絶対に頭おかしくなります。
こやまりさん、本当にこのチューニング能力を実際に使っているかのような演技で、チューニング場面で何度泣いたことか!
地震だとか人の死だとか、リアリティ溢れる物語の中に枋子の特殊能力があったからこそ、この作品がフィクションで作り話だと主張してくれている気がして、少し救われました。
椿航平役和泉宗兵さん
工場の向かいにある「前園刑務所」の受刑者。
私の思い描く受刑者の人柄とはイメージが違っていたので余計に印象深いです。
椿は折鶴工場のドライバーである土井垣偲(武田優子さん)の夫で、一児のパパでもあります。
工場の休憩所と刑務所の独房でそれぞれ話が進むのですが、椿と土井垣が同じCMソングを口ずさんでいたので「もしかしたら?」と夫婦をカミングアウトされる前でも観客は二人の関係性を推測できました。
CMソングを口ずさむってなんかいいですよね……夫婦っぽいですよね……同じ生活空間で暮らしていた感じがしますよね……!
地震があったことで脱獄し、真っ先に工場に向かう椿。
刑務官の板垣の兄弟である、工場長の板垣にいちいちびくびくしていたのがコメディ的な意味合いで好きでした。
しかし一番は、土井垣と息子久太郎の安否を心配して奔走する姿と心情の表現がやっぱりお上手だなぁ、と。
地震の救助活動に多大な活躍をした椿を賞賛する周囲に対し、「皆を助けたかったわけじゃない、愛する人を探していただけなんだ」と本音を零すシーンは椿に感情移入してしまい、二人の安否が心配で泣いてしまいました。
この「認めてどうしても欲しくて」を以て、和泉さんは大人の麦茶を退団されるとのこと。
最後に本公演を観に行けてよかったです。今後のご活躍も応援しております!
「認めてどうしても欲しくて」
其々のキャラクターに自分を重ね、共感できるポイントを探し、自己投影したキャラクターが「認めてどうしても欲しくて」の作品名通りに認めてもらうことで、自分の存在を受け入れてもらう作品なのかなぁと感じました。
そもそも「認めてもらう」ってどういうことでしょう。
私は、“他者に受け入れてもらえない自分を受け入れてもらう”ことが認めてもらうということだと思いました。
うーん……難しい……あと私の語彙力なんとかなりませんかね……
作中で、地震で怪我をしている人を折鶴工場に運ぼうと提案する藤木(宮原将護さん)と、何かあっても責任は取れないから別を当たれと突っぱねる工場長の板垣(池田稔さん)が激しく対立する場面がありました。
藤木は人の命を助けたい一心の主張、気持ちは良くわかります。しかし企業として問題が起こった後での責任問題に発展しかねない迂闊な行動を取りたくない板垣。企業としては正しい選択だと思います。
赤星も言っていましたが、きっとどちらも正しい主張なんですよね。
私の中で、このシーンが「認めてどうしても欲しくて」の作品名を一番シンプルに言い表せる箇所だと感じます。
ハッピーエンドになれない私のヒロイン
今作品、私は枋子の心情を推し量ろうと観劇しておりました。
物語終盤、他の登場人物はハッピーエンド、「ツラいことがあっても先に進もう」と前向きな気持ちで終劇するのに対し、枋子は違いました。
例えるなら、「ツラいことがあって下を向いて歩いていたけど、でも、周りの言葉で頑張ろうって思えた!気分新たに上を向いて歩きだして数歩で落とし穴に落ちた」みたいな気分です。多分枋子メインに観ていた方ならわかってくださると信じてます。
枋子は「チューニング」の能力を良く思っていませんでした。
枋子は自分によく触れてくる白玉さんに対し、「婚約予定の兄と重ねているからそうしているのね」と一時険悪な仲になります。
しかし白玉さんは「私は枋子に触れているのよ」と他の誰でもない枋子自身の姿を見ていると伝え、枋子を抱きしめました。
その後、枋子が他者に触れても、相手が枋子以外の姿を見なくなります。
「もしかして能力消えた!?」と思ったところで、地震の救助活動が一段落して疲れている藤木の肩をそっと後ろから揉んであげます。
藤木はそんな殊勝な行動をとる枋子に「珍しいじゃん」と声をかけ、「お前はお前だよ。ちゃんと認めてるよ」のニュアンスの話をするんです。
でも、よくよく藤木の話を聞くと、藤木は赤星に対して話しているんですよね……
うわああああつらい!!正直その前のシーンの藤木と赤星の会話が枋子を彷彿とさせる内容の会話だなと思っておりましたが、最後にこの仕打ち……世界は残酷だ……
枋子は藤木に少なからず好意を持っていたと思うんですよね。
第一印象は最悪でも「くりくりちゃん」と自分のことを呼んで、親しくしてくれる。垢抜けないお嬢様の枋子にとって藤木は今までにいないタイプで余計に惹かれていたはずなんです。
惹かれていたからこそ、疲れているだろう藤木に何も言わず肩を揉んであげたのでしょう。
なのに……こんなのって……ないよ……!
枋子が報われなくて今感想書きながら泣いてます。全然気持ちに整理ついてない\(^o^)/
枋子メインに観ていたからこそ余計にこの作品の重みというか、苦しい気持ちを大きく受け取ってしまっているのだと思います。
この私の想い、認めてどうしても欲しくて……!
枋子に幸あれ……!
公演概要
大人の麦茶 大人の特別公演「認めてどうしても欲しくて」
2015年3月10日 (火)~2015年3月22日 (日) @東京:Geki地下Liberty
スタッフ
作/演出:塩田泰造
出演
岩田有弘 / 池田稔 / 並木秀介 / 宮原将護 /
野辺富三 / 全原徳和 / 和泉宗兵
今井和美 / うえのやまさおり / 傳田圭菜 /
小山まりあ / 川口美紀 / 武田優子
ストーリー
「あたし、あたまの中にワニ飼ってるからさ、くろいワニ。なんの許可もなしに夢に出てくるから餌代がかかんだよね」と目の細い赤星ちゃんは言った。誰もが赤星ちゃんのひとりごとを無視した。
針金ハリーはその名に似合わず太っていたので電動自転車を買った時、百貫でぶになると言われた。
「だけど俺はコイツを買ってから前より遠くまで出掛けるようになったんだ」と針金さんは言った。
鉄腕アトムは生まれない。2045年に最初の人工知能が完成した瞬間、世界は本当に滅ぶだろうか?「そちらの手間をひとつ増やしてもらえませんか?こちらの手間をひとつ減らしたいので。」
俺の声は上擦っていた。やる気満天の星。黒いワニが音も無く背後に。認めてどうしても欲しくて。
(大人の麦茶のブログより引用)
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