初台駅近く、新国立劇場で上演されていた、舞台版『心霊探偵八雲 祈りの柩』の初日観劇して参りました。
「新宿駅から余裕で歩けるよ!」と友人を無理矢理引っ張って歩いたものの、30分程歩く羽目になりました。
初っ端から舞台に関係ない話を挟みましたが、以下感想とレポです。ネタバレあります!
感想
初八雲に加えての原作未読で臨みましたが、凄く面白かったです!
ストーリーに関して言えば、パンフを拝見して知りましたが、こちらの作品は舞台化が決定してから原作を書かれたんですね。
舞台向きといいますか、原作を知らずとも楽しめる、よくまとまっていてわかりやすいお話でした。
また、役者の面では、若干の心配でドキドキしておりましたがそれも杞憂に終わりました。
きっと原作ではこんな性格なんだろうな、と想像していくものを役者が見事に表現してくれていて。
どの方も活き活きと魅力的に演じており、私の中での八雲が舞台だけで終わるのがとても勿体無く思えてしまいます。
原作があるなら原作を読まねばと思い立ち、観劇の次の日に原作買いました。このフットワークの軽さよ!
舞台が面白かったから原作を買おうと思えるのって、小説原作の舞台作品としては大成功ではないでしょうか!
推理しながらの観劇
誰が何故、どうしてこの人を殺したのか。
ミステリー小説では何も考えずに読み進めてしまう派ですが、舞台観劇となると何も考えずに観るだけではなく、自分でも推理しながらの観劇となりました。
おそらく、後藤刑事が一番私の心情に近かったです。
謎が分からずとりあえず八雲に「どういうことだ!」と突っかかる辺りにとても共感できました。笑
ただの殺人事件ではなく、幽霊の存在も関わってくるこの作品。
全く現実では有り得ないファンタジー作品かと思えば、そんなことはありませんでした。
今作品では幽霊自体に人を殺す力がなく、遺された者へ生きている間に言えなかった言葉を伝える程度にしか物語に影響を及ぼしません。
幽霊の怖さより、「幽霊より生きた人間の方が怖い」がしっくり当てはまります。
単純すぎず、複雑すぎない人間関係。
舞台上の人間関係の変化を見守りつつ、謎が解けていくのは観ていて「なるほど!」とニヤけてしまいました。
三様の物語の糸が繋がったときの気持ちよさ
八雲と晴香、後藤と石井、そして鏡湧泉に関わった人々。
最初は場面場面でそれぞれの話が語られるのですが、宇津木賢人が八雲に相談に来て、後藤の過去の相棒である桐野が後藤に連絡をし、事件が起こり……。
鏡湧泉の幽霊を中心に、平行線上で進んでいた物語が屈折し、交差していきます。
初めはバラバラだったお互いの物語が絡み合っていく様子、必見です。
気になりキャスト
美山加恋さんをお見かけするのも久し振りでしたし、舞台役者としての高橋広樹さんを観るのも初めてですし、齊藤来未子さんの歌声がとても綺麗でしたし、なんというか他の方も見所満載なんですけれども!
今回はお三方だけご紹介です!
宇津木賢人役安西慎太郎さん
友人曰く、こんな役の安西さんが観たかった、と。
冒頭、星を見に鏡湧泉に来ているシーンでは大人しい青年なのかな、と感じたのですが、明らかになっていく姉の失踪をキッカケに、内にどす黒い感情を秘めた青年へと成長していきます。
登場時のイメージは幻想だったのかと首を傾げるほど、後半では感情を顕わにしていました。
聖母のような姉ありきの人格形成
姉の久美を演じた齊藤来未子さんが聖母と言っても過言ではないほどに、全ての罪を許してしまうんです。
どんなに理不尽なことをされても相手を恨むことはなく、弟の賢人にも「恨めば憎しみの連鎖が起こってしまうから、許しましょう」と語りかける女性。
きっと一歩引いた友人ならばいい関係が築けるのかもしれませんが、家族ならば話は別。
賢人は姉が誰も恨まない代わりに、自分が姉の分まで人を恨むようになったのではないかな、と。
好きな人がツラい目にあっているのを近くで見ているのに、どうすることもできないのはとてももどかしいことだと思うんです。
代わりに報復できたらまだしも、姉は報復なんて一ミリも考えていない。
上手く言葉にできませんが、賢人の気持ちがなんとなくわかるような気がします。
姉のために何も出来なくて悔しい、大好きな姉が全てを許してしまうのがイライラする、一番姉が好きなのは自分なのに離れていってしまうの……。
内では複雑な感情を抱えてぐちゃぐちゃだけれども、表面上は穏やかな賢人。
物語が進むほどに内の感情が明らかになっていき、賢人の存在感が大きくなっていきます。
テニミュイメージからの脱却
テニミュでは白石を演じた安西さん。
白石はチームの勝利を一番に考えて、つまらないテニスをする男ですからね……!
白石のイメージが強かったために、自分の感情を優先に動く男を演じられていたのはやはり新鮮でした。
最近観たママ僕のミュキャスたちにはテニミュでのキャラクターがまだ残っているなぁ、と感じましたが、今回の八雲の同級生組(安西さん、石渡さん、東さん)はテニミュでの役を重ねることなく観劇できました。
石井雄太郎役佐野大樹さん
流石です。
話自体は殺人事件等も含まれており、決して笑えるものではないのですが、石井が張り詰めた空気のクラッシャーとして大きく貢献しておりました。
石井登場で「何かやらかすのではないか」、と客席から微かな笑いが起こるんです。
桐野の霊が取り憑いたと八雲から告げられるシーン。
ぽかんとして、信じられないと言葉を失う石井。
一度聴いた言葉を信じられず、もう一度八雲に事実確認を求めるのですが、二回目ではジェスチャーを交えて身の上の状況を確認した後にワンテンポ置いてから大袈裟すぎるほどに驚くんですね。
舞台ならではの表現で、テンポの良さと顔芸に笑ってしまいました。
そうかと思えば、桐野憑依ではまるで違う雰囲気で、場に緊張が走ります。
コメディ要因と憑依時のギャップに感動します。流石です。
次のWBB vol.8「ネバー×ヒーロー」情報も出てきたことですし、益々の佐野大樹さんのご活躍に期待してます!
斉藤八雲役久保田秀敏さん
八雲を観に行こうと決断したのも、久保田さんが主演だからです。推しですもの!
推しとはいえ、正直に申し上げますとそこまで期待をしていませんでした。
いざ観に行ってみると、八雲というキャラクターがぴったり当てはまっていて!
晴香役の美山加恋さんとの掛け合いも息ぴったり。
「本当に君は馬鹿だな」と言わんばかりの態度と、後藤刑事をおちょくる台詞回しがとてもツボでした。
二回くらい私でも気付くくらいに台詞噛んでましたけれども台詞多いですしね!初日ですしね!(推しへの贔屓)
無気力な黒髪男性好きとくぼひでさんファンは絶対楽しめること請け合いです。
生死、どちらが幸せかわからなくなる作品
今回の八雲、登場人物がみんな凄く魅力的でとても面白かったのですが、心に引っ掛かる点が一点。
このお話、生きている者が心にわだかまりを抱えて、死んだ者が幸せになったように感じたんですよね。
賢人は姉の死の真相を知り、決して幸せにはなれないでしょう。
織田は唯一自分に手を差し伸べてくれた友人に、酷な真実を告げなくてはならなかった。
貴俊は友人の自分へのどす黒い感情を知ってしまった。
そして桐野は、愛する人の待っている死後の世界に行くことができた。
残された者たちが悉く今後の人生を気持ちよく過ごせないだろう影を落とす中で、殺された者や自殺した者だけがハッピーエンドになれたように思えました。
死者の魂に救いを与えるという点では納得できるのですが、それにしても生者に酷。
観劇後に全て解決、すっきりして終わるのではなく、ぐるぐる頭の中で考えてしまいます。
観客にその場の「面白かった!」だけで終わらせない神永さんの画策に見事に嵌りました。
原作ではより細かな心情等描かれていることを期待し、舞台の復習がてらのんびり原作を読み進めようと思います。
そして、生きる方が幸せなんだよ!と胸を張って感想を述べたいです。
死者だけでなく、生者にもどうか救いを……!
公演概要
舞台版『心霊探偵八雲 祈りの柩』
2015年2月11日(水)~22日(日)@東京:新国立劇場 小劇場
2015年2月27日(金)~3月1日(日)@大阪:ABCホール
スタッフ
原作:神永 学「心霊探偵八雲」シリーズ(株式会社KADOKAWA 角川書店刊)
脚本:神永 学、丸茂 周
演出:伊藤マサミ(bpm/進戯団 夢命クラシックス)
キャスト
久保田秀敏
美山加恋
安西慎太郎 / 石渡真修 / 東 啓介 /
樋口智恵子 / 齊藤来未子 / 北原沙弥香
佐野大樹 / 高橋広樹
東地宏樹
ストーリー
八雲のもとに、宇都木と名乗る青年が、心霊現象の相談にやってくる。
丘の上にある泉で幽霊を目撃してから、友人の女の子が憑依され、歌を歌い続けているという。一方、刑事の後藤のもとには、かつての相棒であった桐野から、殺害予告を受けているという相談が持ち込まれる。
それをきっかけに明らかになる封印された後藤の過去。
そして、教会で起きる密室殺人。幽霊の歌と、後藤の過去は、人々に何をもたらすのか??
(公式サイトより引用)
公演公式サイトはこちら