渋谷のCBGKシブゲキ!!に、『TARO』を観て参りました。
フライヤーのカッコよさと話のテーマに惹かれてふらふらと行った作品ですが、とても良かったです!
劇場もそこまで広くないために舞台が近く、オペラグラスなしでも十分に役者の表情まで楽しめました。
以下、ネタバレ含めた感想とレポになります。
感想
主演の川隅美慎さんを始め、ダンスレベルの高い舞台!
体感的にはダンスと殺陣が7割、芝居が3割くらいの印象です。
5人の太郎たちもそれぞれキャラクターがしっかり立っており、ダンスや歌に個性があって素敵でした。
多分某仮面ライダーがお好きならそのイメージを想像していただければ大体相違ないです。
桃太郎、浦島太郎、金太郎は某イメージのままだとして、寝太郎はマイペースな天使、竜の子太郎は博識なマザコン。
冒頭でそれぞれの太郎にソロ見せ場が与えられており、熱唱と共に自身の物語を身振り手振りを交えつつ簡略に紹介されるのですが、そこでの三年寝太郎の扱いの酷さ……!
キャラクター上仕方ないのかもしれませんが、他の太郎たちと比べて5分の1くらいしか単体出番がないのは不憫……!
寝太郎以外、歌に関しても、よく知る各太郎ソングのアレンジバージョンといった感じで、初めて聴くはずなのにすごく懐かしさを感じました。
観劇してからずっとKINTAROのメロディが頭の中をずっとリピートしてます助けてください
各太郎紹介シーンで出オチ感があったので、何も考えずに笑える作品なのかな、と思いきや、全くそんなことはありませんでした。
人々がよく知る作品をテーマにしているからこそ、思考を求められている。
観劇後に手放しで余韻に浸るというよりか、一種の投げかけに対して自分はどうなのかと省みてしまいました。
ヒーローとしてのシンボル
桃太郎の「日本一」の鉢巻、浦島太郎の釣竿、金太郎の鉞(まさかり)、三年寝太郎の枕、竜の子太郎のでんでん太鼓。
“彼らはシンボルがあったからこそ、ヒーローとして、そして人々に夢を与える存在であることができたのだ。
仮に、もしもシンボルがなければ悪人であったかも知れない。”
鬼の独白に「そんな解釈もあったのか」と、楽しむだけだと思っていた気持ちを切り替えざるを得ませんでした。
主人公補正に甘んじて傲慢になった太郎たちを、慕っていた者たちは裏切り、シンボルを奪います。
シンボルを取り返すため、5人の太郎は御伽の世界から2015年東京にやってきた鬼を追って現実世界にやってきます。
その後、一度はシンボルを取り返すものの、バッドエンドに変わってしまった御伽噺の太郎物語は元の姿に戻りませんでした。
シンボルとは何か。
負け知らずの最強の主人公補正だったにしても、本来の意味合いではいわば「ヒーローの心の象徴」ではないかな、と。
人々を幸せにしたい、誰かを助けたい。
その想いをもとに行動する勇気を持つ者に許された証なのではないでしょうか。
本当はシンボルそのものに運命を切り開くような力なんてなくて、勇気ある心の後付でそんな力を錯覚したのかもしれませんね。
気になりキャスト
太郎たちは勿論なんですが、太郎以外の役者さんの身体レベルが高くてですね……!
舞台上を駆け巡る役者さんたちに思わず感嘆の声が漏れました。
桃太郎役川隅美慎さん
川隅さん、『バカフキ!』のときから思っておりましたが殺陣が素晴らしいです。
殺陣でなくダンスもセンターで踊ることが多いので、ついつい目で追ってしまいます。
また、今回の衣装が裾が長くゆったりとしていたので、ダンスが映えること!
ダンスもさることながら演技面でも印象に残ることが多かったです。
特に、東京にきた太郎たちが一度バラバラになり、ひょんなことから再会、集まったときのこと。
桃太郎は鬼を倒してシンボルを取り戻そうと提案しますが、乗り気でない他の4人の太郎。
女性からの着信コール音を鳴らす浦島太郎に、「その電話出たら、もうお前は仲間じゃない」と言い放つ桃太郎。浦島太郎は少しの間を置いて電話を取り、鬼の居場所を探知する鬼の涙を桃太郎に押し付けて去ります。
浦島太郎の後を追うように、他の3人の太郎たちも桃太郎の下からひとり、ひとりと去っていきます。
桃太郎は「鬼退治は俺の仕事だからな!」と明るく振舞いますが、空元気。
このシーンの桃太郎が切なくて、凄く好きです。
最初、シンボルを振りかざして「酒持ってこーい!」とか言ってた桃太郎に駄目主人公感が漂っていましたが、南ちゃんと会ってから南ちゃんをアイドルにしてあげたい!応援してあげたい!と奮起していく様子はまさに主人公。
どんどんと立派になっていく姿に、息子を見守る母親の気持ちで観劇してました。
南ちゃん、不束者の息子ですがこれからも宜しくお願いします……!
風間南役替地桃子さん
太郎のお話だったので5人の太郎を紹介すべきところなんですけど……南ちゃんがあまりにも可愛かったので……!
替地さん演じる南ちゃんはアイドルを目指す女の子。
アイドルらしいダンスだったり、仕草が多く盛り込まれてるんですけど、どれも可愛いです。
ただ可愛いだけでなくてですね、華麗な側転までも披露されていて「!!?」となりました。
あと特筆すべきはスタイルの良さ。
斜め掛けの鞄をされてたから余計にスタイルが際立ちます。
南ちゃんにとって御伽噺の太郎たちがヒーローだったように、太郎たちにとっても南ちゃんはヒーローだったのではないかな、と。
夢を忘れた太郎たちに、夢を与えたキッカケ。
南ちゃんを中心としてバラバラになった太郎たちが一致団結していく様子は、まるで正統派の夢小説を見ているようでした。
鬼役舘形比呂一さん
フライヤーのインパクトも言わずもがな、演技に関しても普段若手ばかりを見ているからか、重みが違いました。
語りに安定感があり、そうかと思えば殺陣では踊っているかのように軽やかな動き。
他者に乗り移って操るシーンでは他の演者と一緒に同じ台詞を喋るにも関わらず、相手の喋りを妨げずに迫力を増幅させています。
フライヤーからラスボス感満載でしたが、実際に舞台上で立ち回る鬼を見て確信しました。
「この鬼には勝てない」。
個人的な桃太郎作中の鬼のイメージは、「がっははは」と大口開けてお酒を呑みながら金棒片手に大笑いしている
ようなものを思い浮かべていましたが、この『TARO』では全くそんなことありませんでした。
「ふはははは」と高笑いする切れ者。金棒ではなく、念的な波動を操ります。
付け入る隙が一切見当たらないんですよ!
鬼と太郎は何度か交戦しますが、その度にハラハラしてしまいました。
桃太郎に敗れるところまで強大な敵としては完璧で、何十年後に復活して再度太郎たちの前に立ちはだかるんじゃないかと思えるほど。
目的と夢
「目先の事柄に捉われすぎて、本質を見失ってはいないか」の問を投げかけられました。
作中、南ちゃんが「アイドルになって皆を笑顔にしたい」と夢を語り、桃太郎は「鬼を倒すのが夢」と。
繰り返される終わらない運命の中で夢と目的が混同し、桃太郎は最初に目指していたものを見失っていたんですね。
桃太郎にとって、鬼を倒すことがゴールではないですし、その先の「皆の幸せ」があったはず。
その目標を達成させることで何を得ることができるのか、どうしたいからその目標を定めたのか。
目的と夢の混同とは、御伽噺の世界だけではなく、私たちの日常生活でも置き換えて考えられるのではないでしょうか。
この問に、「ああああわかる!!」と同時に、自分でも心当たりがあるがために反省しました。
大分個人的な話になりますが、南ちゃんのようにキラキラした夢を追いかける年頃ではなくなり、最近は結婚を意識する年頃にはなりましてですね。
相手がいないものの「結婚したい!」と口癖のように言っておりましたが、これは更正する前の桃太郎と同じではないかな、と。
桃太郎の「鬼を倒す」そのものが目的になってしまっていて、その目的を成し遂げて得られるものを見失っていたのではないか……と。
「結婚」は目的でなくその先の人生を歩んでいくひとつの手段なんですよね。
「結婚したい」「指輪欲しい」を連呼するのを止めて、せめて「幸せになりたい」を口癖にしようと思いました。
夢を叶えるために頑張るあなたの傍にきっと太郎がいるはず!
私にも、私を幸せにしてくれる太郎が現れないかな……
公演概要
『TARO』~俺たちが救う!!~
2015年1月21日(水)~25日(日)@東京:CBGKシブゲキ!!
スタッフ
演出:滝井サトル
脚本:米山和仁
振付:伊藤今人、梅棒
キャスト
桃太郎役:川隅美慎
浦島太郎役:山本一慶
金太郎役:加藤真央
三年寝太郎役:緑川 睦
竜の子太郎役:岡崎大樹
鬼役:舘形比呂一
大岩主弥 / 替地桃子 / 福島悠介 / 鈴木智久 / 富田大樹 /
島森丈明 / 池田絢亮 / 林弘二 / 加治みなみ
ストーリー
「Taro」の称号を持つ者達が、世界のトラブルを解決していく痛快ヒーロー活劇。
日本人になじみのある登場人物、エピソードを散りばめながら、現代のエンタメの要素をふんだんに盛り込んだ娯楽活劇のストーリーが、ハイテンポで繰り広げられる!!今、最も勢いのあるダンスユニット『梅棒』から伊藤今人が振付けに参戦!!
圧倒的なパフォーマンスとステージングの融合が、誰も観た事のないエンターテインメントを生み出す。桃太郎、浦島太郎、金太郎…お決まりの設定に、定番の展開と思いきや、トリッキーなストーリー。あっと驚く仕掛けを用意し、片時も目を離せない極上の物語をお贈りいたします。
(公式サイトより引用)
公演公式サイトはこちら