11月6日、劇団鋼鉄村松の「ロケット・マン」が初日を迎えました。
当日券で飛び込み観劇してきたので感想とレポートです。
感想
私的にここ最近で一番良かった作品でした!
9日までと公演期間は長くないのですが、是非とも多くの方に観ていただきたいです!
ですので、ネタバレなしverのぼんやり感想と、がっつりネタバレありverの感想で分けて綴ります。
核心的なネタバレなしの感想
すごく良かったです!!!
独白場面が多くある作品ですが、その独白で情景が浮かんできます。
ネタバレなしとは言いますが、簡単なあらすじだけでも。
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作品名でもある「ロケット・マン」とは、光速到達実験のための宇宙船乗組員を指します。
特徴的なのが、この実験により旅立ったロケット・マンたちの宇宙にいる間の時間の流れと、地球にいる生物の時間の流れの相違。
主人公カーフが宇宙にいる大よそ数ヶ月が、地球にいる生物の10年間に匹敵します。
生存率およそ50パーセントの光速到達実験を繰り返す中で、どんどんと時間、気持ちがずれていくロケット・マン。
果たしてその結末とは……?
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という感じです。大分端折るとこんなあらすじです。
宇宙船乗組員の話なので、宇宙の場面が多く出てきます。
印象的だったのが、星の光が点ではなく線となって窓の外を流れる情景を、ムラマツベスさんや小山まりあさんがキラキラ輝く瞳で感動しているシーン。
二人を見ていると、天井のライトが“ライト”ではなく、星の線を一緒になって見ているようでした。
中野のテアトルBONBONの劇場には、確かに宇宙が広がっていました。
ネタバレありの感想
以下全てネタバレしている感想になりますので、まだ観られていないご観劇予定の方はご注意ください。
冒頭、「どういうこと?」と思う場面がありましたが、全て観て納得しました。
納得と同時に感極まって泣きそうでした。
「旅の同行者」を教えた彼は幻
10歳の少女(浅倉美桜さん)が、主人公カーフ(ムラマツベスさん)を初めての宇宙飛行に送り出す場面。
一度向かったカーフが戻ってきて、思い出したかのように少女が前に尋ねた「スプートニク」の意味を話します。
改めて旅立ったカーフ、少女がその背中を見つめ、「カーフブラィディング・ドラゴンスクリューは死んだのね」との台詞。
このシーンにしばらく矛盾を感じていました。
少し後の場面では、初めての宇宙飛行が無事成功して、地上での10年後に戻ってきているのに、と。
でもこれ!一番最後のタイムマシンで過去に戻ったカーフなんだと思うと凄く納得……!
愛する人の一番愛する時代に戻って、一目見て、死へと旅立つカーフ。
少女が妻になって、息子のダグに「あの人はもう死んだものと考えているの。あの人は幻」と語ったことは、彼女からしたら間違えてはいないのです。
彼女が10歳の頃、10年後の再会を約束して見送った背中は本当にもう死んでしまっている。
見送った背中は275歳である死の直前のカーフ。
つまり10年後、初宇宙から帰ってきたカーフは最後に少女が背中を見送ったカーフとは別人なんですね。
少女は10歳時に宇宙へ見送った後姿の彼を待ち続け、彼は10歳の彼女を愛している……。
お互いに幻を追い求めているのが凄く切ない。宇宙に行かなければすれ違うことはなかったのに!
(正直ロリコン設定だと聞いてあまりまともなイメージがありませんでしたが、この話展開は非の打ち所なく完璧だと思いました。)
仲間であり、家族であったクラリンダとの関係
カーフがタイムマシンで過去に戻ることをクラリンダ(小山まりあさん)に報告し、「一緒に戻ろう」と誘う場面に胸が熱くなりました。
カーフとクラリンダは祖父、孫娘の関係ではありますが、円満な関係でも険悪な関係でもありません。
カーフは宇宙に旅立つ度、地上の人間とは時間の流れが違うために、どんどんと周りの人間を失っていきます。
大切な人を失っていく中、「ロケット・マン」としての世界からの畏怖が大きくなるのと反比例するように、カーフの感情は失われていきました。
一方のクラリンダは“英雄”と称えられるロケット・マンの祖父に憧れ、そして、ロケット・マンに選ばれます。
感動的かと思われる初めての対面。しかし、その際カーフはクラリンダに全く興味を示しませんでした。
孫娘から祖父へは憧れ、祖父から孫娘には無関心。
「ロケット・マン」でのカーフとクラリンダの最初の関係はこのようなものだと思います。
それから、カーフとクラリンダが共にプロメテウスに乗り合わせ、クラリンダの恋人であるアルから運命を証明すると言われ、クラリンダとアルの時間がまるで過去の自分と妻のようにすれ違うのを間近に見て、アルの死、そしてクラリンダがアルの死を地球に帰還してから知り……
ロケット・マンになったクラリンダはカーフを「独りにしない」と言いますが、アルの死後、ロケット・マンとして生きることを止めます。
カーフと同じ時間を生きることをクラリンダは止めたのです。
その後、時間の流れが違う二人はほとんど会う機会なんてなかったでしょうに、カーフはタイムマシンに乗る前に真っ先にクラリンダに「一緒に戻ろう」と申し出ました。
「あなたを独りにしない」と、生き別れていた孫娘に言われた台詞は、きっとカーフにまだ感情があった頃、欲しかった言葉ではないでしょうか。
違う時間を生きるロケット・マンとその愛する人が死に別れ、悲しみに暮れる姿は、もう感情がなくなったカーフが過去に憧れていたものではないでしょうか。
欲しかった言葉を与え、憧れを見せた孫娘の存在は、カーフにとって一番が手に入る時に、共にその一番を分け合いたいと思えるほどにまで大きなものになったのかな、と。
一時だけでも孤独を分かち合った仲間、なにより血の繋がった家族としてクラリンダを認めたんだろうなと思うと、カーフの心境の変化に涙が出そうになりました。
気になりキャスト
開演時間ギリギリに行ったからか、開演前の日高ゆいさんの劇団鋼鉄村松コールとゆいゆいコールほとんど参加できませんでした!無念!!
【11/12追記】
ライカ確保時のロシア人役が小山さんと紹介しておりましたが、正しくは福満さんでした。
ロシア人のクールビューティーな感じが凄く素敵でした……!あの女王様感たまらないです。
カーフ役ムラマツベスさん
今作品、「ロケット・マン」の主人公。
私、今回の観劇で気がついたこととして、ムラマツベスさんの台詞の言い方がとても好きだな……と……!
劇場内に宇宙が広がると先述致しましたが、ムラマツベスさんの台詞の情景が一番イメージしやすい!
星の線で感動するところもそうですし、同乗していた上司が宇宙で死んだ後の、宇宙の暗闇と孤独感。
カーフがこういう景色を見ているんだな、と客観的に観るというよりかは、自分がカーフとなってその景色や感情を持つような感覚での観劇でした。
劇団鋼鉄村松の舞台、今回で3作品目なのですが、大体ムラマツベスさん少し残念な役で出てらっしゃって(今回も例外ではなかったんですけれども)、それでも役にドハマリしてらっしゃるのすごいなと!
主人公で英雄のロケット・マンでしたが、10歳がストライクで20歳はボールのロリコンでしたものね。
今回でムラマツべスさんと村松ママンスキーさん、村松中華丼さんは休団とのこと。
とても残念ではありますが、最後にとても素敵なお芝居を拝見できて良かったです!
また舞台の世界で生きるお三方を拝見できることを心待ちにしております。
(今更ですが、早期特典の「おはようからおやすみまで暮らしを見つめるベスボイス」が公演終了後に発売されていたようなので購入しておけばよかったと後悔中です……!
終演後のBGMで流れていたのがとてもシュールで!笑
ムラマツベスさんの台詞の言い方が好きと書きましたが、それ以前に声が好きなんですよね!
しりとりでうまい棒とか普通使わない……あのいい声でのしりとりCD聞きたい……)
クラリンダ役小山まりあさん
私、純粋に小山まりあさん(こやまりさん)のファンなんですよね!!
クラリンダはカーフの孫娘なので、物語が半分ほど進まないと出てきません。
この孫娘クラリンダもカーフに負けず劣らず、波乱万丈な生活を送る役柄。
英雄と言われる現役ロケット・マンを祖父に持ち、その祖父に憧れて自身もロケット・マンに。
ロケット・マンになった後、初めて祖父と対面するも無関心を貫かれて。
一緒にプロメテウスに乗り、祖父の過去や周りとの時間のズレも少しだけ話をして。
何度目かの飛行を経て、船長になった後の帰還で、最愛の彼が寿命で亡くなっていて。
ロケット・マンとしての人生を諦め、地上で暮らすことを決めて。
結婚して、子供を儲けて、おばあちゃんになって。
過去に戻る祖父に「一緒に行かないか」と誘われるが、断って。
祖父でありロケット・マンであるカーフ、恋人のアルとの絡みが特に多かったのですが、それぞれとの関係性や感情が内包されているこやまりさんの立ち回りが凄く好きでした。
個人的に好きなクラリンダ場面を挙げると、
- カーフを同じロケット・マンであり、家族として理解してあげようとする場面。
- アルの死を知り、カーフにロケット・マンを止めると告げる場面。
- 老いたクラリンダの独白場面、若きクラリンダへ移り変わる数秒間。
この3場面が特に!オススメしたいシーンです!
ウラシマ効果の中で生きる「ロケット・マン」
上でも散々書き散らしましたが、ロケット・マンとその他の人々の関係性がとても考えさせられる作品でしたので……。
そもそもウラシマ効果とは何かをおさらい。
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昔話の「浦島太郎」。
亀を助けて海の中の竜宮城に行った浦島太郎。
お礼として竜宮城で数週間過ごし、地上に帰ってくると何十年も経ってしまっていました。
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……つまり時間の流れが違うということですね!
今作品の「ロケット・マン」もこのウラシマ効果が物語の大きな軸になっておりました。
「浦島太郎」と違うのは、浦島太郎は予期せず起こったウラシマ効果ですが、「ロケット・マン」では予めロケット・マンたちはこのウラシマ効果が起こることを知っているということ。
地上で暮らす生き物とは違う時間の流れを、宇宙にいる間体感することを覚悟の上で旅立っています。
覚悟の上……ロリコンのカーフは初めての飛行で10歳の少女と10年間離れることを嘆き、最初は宇宙に行くことを拒んでいました。
10年なんて彼女は20歳になってしまう!違う!少女じゃなくなってしまう!と。笑
ロリコンはさておき、ノーマルだろうクラリンダはアルに向けて旅立ちを告げる際、とても軽い様子だったように思えます。
地上で待つ側からしたら10年は長い歳月ではありますが、宇宙にいるロケット・マンからしたら数ヶ月の出来事ですので、根本的に時間の重みが違うのではないでしょうか。
初めての飛行ではそんなに時間の差は感じないかもしれませんが、何度も繰り返す度に時間の“差”は大きくなっていきます。
例えば、地上での10年間に値する宇宙飛行が4ヶ月だとすると、宇宙飛行を1年間するだけで地上では30年経ってしまっている……。
例で算出した数字ですので、物語上の数ヶ月がどのくらいかはわかりませんが、例え話でもこれだけの差が出てしまっています。
地上でロケット・マンの帰りを待ち焦がれる人々は、時間の重みをロケット・マン以上に痛感しているはずなのに、自分の感情よりもロケット・マンたちの夢を優先し、感情を押し殺しました。
素直に自分の感情を伝えないがために、宇宙に旅立ったロケット・マンが帰還してきたときに知るのは、伝えることを押し留まった者の死。
もし、アルが正直に「自分が死ぬ瞬間はきみに傍にいて欲しい」とクラリンダに伝えていたら、きっとクラリンダは宇宙に飛び立つことはなかったでしょう。
この「ロケット・マン」のウラシマ効果とは、クラリンダのように大切なものを失わないとその異常さに中々気付けないものなのかな、と。
異常さと同時に、大切なものを「大切だった」と再認識するのも、もう失って戻れないその時なのではないでしょうか。
私が今後ウラシマ効果を体験することは万が一にもないですが、大切な人を改めて思い直して大切にすることはできます。
身近なところで、大切な人を失う前にその気持ちを言葉や態度で伝えていかなくてはと考えるひとつのキッカケを「ロケット・マン」は与えてくれました。
公演概要
「ロケット・マン」
2014年11月6日(木)~9日(日)@東京:テアトルBONBON
スタッフ
脚本・演出:バブルムラマツ
キャスト
ボス村松 / ムラマツベス / 村松ママンスキー / 村松中華丼 /
サラリーマン村松 / キラー村松Jr. /
加藤ひろたか / 浅倉美桜 / 赤本颯 / 福満瑠美 /
日高ゆい(8割世界) / 星野良明(留級座) / 小山まりあ / 西村俊彦
ストーリー
「カーフブラィディング・ドラゴンスクリューが今、死んだ。275才だった。
それが長かったのか短かったのか、彼以外には決めようがないのだ。
彼の話をしようとして、何から話せばいいのか俺はいつも悩んでしまう。
だから俺は、一匹の犬の話から始めようと思う。」1957年、ソ連の人工衛星スプートニク2号が世界で初めて生物を宇宙に送ることに成功した。
世界最初の宇宙船乗組員、宇宙犬ライカ。
その犬は数時間、衛星軌道で生存した後、動きを止めた。それから何百年かの時が流れ、マイナス質量物質の発見、超小型ブラックホールの開発を経て、人類は光速到達実験、プロメテウス計画を立ちあげる。
その最初の宇宙船プロメテウス1の宇宙船乗組員、ロケット・マンに選ばれた男、カーフには重大な秘密があった。彼は十歳の少女と永遠の愛を誓う、ロリコンだったのだ。
プロメテウス1は10年の時間をかけて光速の97%に加速する。
ウラシマ効果によりカーフにとってはそれは数ヶ月。
しかし地球では二十歳に成長した少女が彼を待っていた。流れていく時間と心。
運命は否定され不確定な未来を切り開く人々の意志は光速に到達し神の領域に入り込もうとする。「西暦2222年2月22日の22時22分22秒」「ギャラクティカ・めんどくさい」「家族がやたら恋愛に理解のあるロミオとジュリエット」のバブルムラマツが、鋼鉄村松初期の作品の中でも評価が高く、2003年にも再演された作品「ロケット・マン」を劇団二十周年の今、完全リライト。
数百年を飛び続けた伝説のロケットマン、カーフブラィディング・ドラゴンスクリューの生涯と光速到達実験プロメテウス計画を再び描く。長年鋼鉄村松の看板役者を務めたムラマツベスと38㎜なぐりーず研究生としてのアイドル活動など多方面で活躍してきた村松ママンスキーが今回で休団、二人のラストステージ?を見逃すな!
そして二年の育児休団を終えたキラー村松Jr.がJr.が大きくなったので活動再開!
二十周年最後、そして二十一周年に向かう鋼鉄村松の明日はどっちだ!
(公式サイト公演概要ページより引用)
公演公式サイトはこちら